1955年ごろから、下痢などが続いた後、急に足の感覚が無くなったり痺れたりする患者が出てきました。目が見えにくくなったり、足が麻痺して歩けなくなる人も多く、原因不明の奇病ということで社会問題になりました。
57年頃から各地で集団発生することから、伝染病が疑われました。1960-1年にポリオが大流行したこともあり、大人のポリオと呼ばれたこともあります。ウイルスが原因かと疑われ、スモンのウイルスを発見したという報告もあり(追試では証明されず)、マスコミで報道されました。伝染病ではないかということで患者は差別され、社会的にもつらい思いをすることが多かったようです。
本当の原因がわかったのは、1970年でした。スモンの患者さんは舌や便、尿が緑色になることがあります。この尿中の緑の結晶を分析した結果、緑色物質はキノホルムであることが6月に判明しました。
キノホルムは整腸剤として、当時は非常によく使われていた薬です。調査すると、スモンの患者さんは皆キノホルムを服用していたことが8月に報告されました。しかも服用量が多いほど早期に発症し重症であることが示されました。これを受けて厚生省は9月7日の中央薬事審議会でキノホルムの使用を禁止しました。販売中止と使用見合わせの措置をとった結果、9月以降はスモンの発生は激減し、なくなりました。
キノホルム(クリオキノール)は、殺菌性の塗り薬として1899年にスイスで開発されました。腸から体内には吸収されないと考えられたため、1920年代からは腸の殺菌目的で内服薬として使われ始めました。しかし、1935年にアルゼンチンでスモンらしい症例が発生し、スイスはキノホルムを劇薬に指定。日本もこれにならいました。ところが39年に日本では劇薬指定が取り消され、軍隊での使用のために生産が拡大しています。
また、第二次世界大戦直後の日本は混乱しており、厚生省の薬事審議会は内外の薬局方に収載されている薬品を一括承認しました。キノホルムは適応症が拡大され、投与量の増加も認められました。61年に国民皆保険制度が確立してからは、使用量が増加しており、市販薬にもこれを含有するものが多くありました。キノホルム含有薬剤は186品目もあったため、原因の特定を難しくさせました。体内に取り込まれないと考えられていたキノホルムですが、実際は腸管から体内に吸収されており、これが神経組織を侵してスモンを発症させていたのです。犬にキノホルムを投与したところスモンを発症することも確かめられました。
スモンの原因がキノホルムだと判明し、原因不明の奇病や伝染病だと言われてきた患者たちの憤りは高まりました。キノホルムを製造販売していた製薬会社と使用を認めた国の責任が問われ、訴訟となりました。約11,000人がスモンと鑑定され、何年にも亘る訴訟の末、1979年にスモンの原因究明と患者の恒久対策を条件に和解が成立しました。
恒久対策として、原因追及と治療法の開発、検診等で予後追求と健康管理を行うことになり、現在は厚生労働省難治性疾患政策研究事業「スモンに関する調査研究班」に事業が引き継がれてきています。