厚生労働省はスモン患者さんに対する施策を恒久対策と位置づけ、通常の難病以上に丁寧な保護・補償を行ってきました。こうした恒久対策の一つに昭和63年から正式なスモン研究班の活動として実施されているスモン患者さんの検診があります。スモン検診は、各都道府県のスモン研究班員により、毎年着実に施行されており、今日2,000人近くいると推定されているスモン患者さんの約4割に相当する患者さんが参加されています。保健所などに集まって頂いて行う、患者さん同士がお話できる機会ともなる集団検診に加えて、最近では、集団検診に参加することが難しい患者さんを直接お訪ねする訪問検診も行われています。検診では、問診や診察により患者さんの病状を理解し、療養に関するアドヴァイスをしたり、患者さんの質問に答えたりすると同時に、同意の得られた方の各地区・全国のデータを集積・解析することによって、医学的福祉的状況を把握して、対症療法の開発や療養状況の悪化予防に役立てようとしています。昨年度は、683例の方が検診に参加され、データの解析に同意されています。スモン患者さんの平均年齢が80歳を越した現在、増加する併発症や福祉・介護の問題が重要な課題になってきています。検診では、こうした問題に対処するべく、ソーシャルワーカーや医師以外の職種を検診に同行させたり、検診後に相談する機会を設けたり、各地区の担当者による様々な工夫がなされています。また、データを解析した結果をもとに、患者さんの療養に資するための冊子を作成・配布したり、医療・福祉関係者への啓発を行うための市民公開講座などを企画したりしています。
しかしながら、検診事業にも課題が指摘されています。検診結果をどのように日常臨床にフィードバックするかという問題や、北海道地区では9割の患者さんが検診を受診されているものの、全国では半数を超える方が検診を受診されていないため、データにはある程度の偏りが生じたり、全体像の把握に支障が生じている可能性があるという問題などです。前者に対しては、検診結果を患者さん宛てに後日届けるなどの工夫がなされていますが、個人情報保護の問題もあり、なかなか地域医療・福祉の理想である、行政や病院・診療所、福祉サービス事業所、関連業者、地域コミュニティーを巻き込んだネットワークを形成し情報を共有するまでには至っていないようです。後者に対しても、患者さんが検診を受診しない理由をお聞きして、受診して頂けるような検診方法の改善につなげようとの試みがなされたり、検診未受診の方に病状や療養の現状をお訪ねするようなアンケート調査が実施されたりしていますが、残念ながら、訪問検診を提案しても検診を拒否される方もいらっしゃったりして、検診受診率の大幅なアップは難しいのが現状です。
それでも、我々スモン調査研究班としましては、年々、スモン患者さんの高齢化と併発症増加により、患者さんの医学的・福祉的状況が悪化している状況において、一人でも多くのスモン患者さんの検診を実施して、神経学的・全身的病態や療養・福祉サービス状況の調査を行い、その実態を明らかにし、スモン恒久対策の一環として寄与すべく、少しでも皆様のお役にたてるように努力していきたいと考えています。