国立病院機構鈴鹿病院長 久留 聡
当院は主に神経難病、筋ジストロフィー、重度心身障害の患者さまの診療を行う病院です。昨年から三重県の難病拠点病院に指定されています。私自身、週2回外来を担当していますが、様々な神経・筋疾患の患者さんが受診されます。神経内科領域にはたくさんの病気があるので、診断が難しく、鑑別に悩む症例が少なくありません。筋ジストロフィーの一種に、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)という疾患があります。遺伝性の疾患で、現時点では進行を抑えることができるよい治療法がまだありません。ところが、ある程度治療可能な病気がLGMDと非常によく似た症状をきたすことがわかってきました。自己免疫性の壊死性ミオパチーやPompe病、先天性筋無力症候群などです。徐々にではありますが診断方法は確実に進歩しているのです。たとえば、今まで簡単には測定できなかった壊死性ミオパチーに関連する自己抗体(抗SRP抗体や抗HMGCR抗体)が測定できる様になったことで診断の精度が向上しました。こうした最新の診断技術を用いて、従来の診断をあらためて見直す必要もあると考えています。当たり前のことですが、正しく診断して治療ができる病気を見逃さないことが極めて重要です。
また、患者さんやご家族には正確な病名と、病気に対する正しい知識を持っていただきたいと思います。「筋萎縮性側索硬化症」、「脊髄性筋委縮症」、「球脊髄性筋委縮症」はそれぞれ異なる疾患です。字面だけ見ると大変紛らわしいと思います。「筋萎縮性側索硬化症」にはリルゾールやエダラボン、「脊髄性委縮症」にはヌシニルセン、「球脊髄性筋委縮症」にはリュープロレリンといった新しい治療薬が出てきました。インターネットが普及して、様々な情報が氾濫していますが、その中でどれが信頼に足るものであるのかを知ることは、大変難しいことです。わからなければ主治医に相談していただくのが一番です。怪しげな民間療法に頼って、みすみす治るはずの病気を悪くしてしまったという残念なニュースも耳にします。やはり、医療は医療を提供する者と患者・患者家族の信頼関係なくしては成立しません。当院ではこうした信頼関係に基づいた医療を展開していきたいと常に思っています。
院長 久留 聡 |